
その日は何時もと変わらぬ一日でした。ただ、NYの名門ジャズクラブ、ヴィレッジ・ヴァン
ガードを除いては。1961年、6月25日。メインアクトであるLambert,Hendricks and Rossの
インターミッション、いわゆる休憩中の繋ぎのアクトとして舞台に出たビル・エヴァンスの
ファーストトリオ。ウエイターが空いた食器を片しているのでしょうか、グラスがぶつかり
合う音に観客のお喋りや笑い声。誰一人あまり真剣に聴いているとは思えない状況の中、た
だただ、美しく、歴史に残る名演を展開しました。そして、疎らな拍手と共に最高の演奏を
終えたこの11日後。ベーシストのスコット・ラファロの突然の他界により、伝説のファース
トトリオは特に注目される訳でも無く、ひっそりと幕を下ろしました。この日の名演
は'Waltz For Debby 'と'Sunday at the Village Vanguard 'の2枚のアルバムに収録されています
が、その後の不幸を知る自分にとっては、少し寂しい、そんな何とも言えない気持ちになっ
てしまうアルバムでもあります。しかし、観衆のざわめきの中、そっと始まる'My Foolish
Heart'の美しさに惚れ込んだ記憶は今でも鮮明に生きています。「JAZZに名曲は無く、ある
のは名演だけ」誰が言ったか、その言葉の意味が少し分かってきた気がします。










